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完全手彫りへの対応

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手彫りの印章づくりをするうえで、優れた職人の条件を挙げるとしたら、デザイン力、構成力を持った方、ということになるでしょうね。文字の一つひとつを全体として組み合わせ、小さな印章のスペースの中に、どうレイアウトすれば美しく収められるかを理解している方ということ。印章の世界でよく言われるのは「判子の中に宇宙がある」という言葉。可能性が無限に広がる小さな空間に、バランスの良い配置を見極めることは、とても大変なんです。大きさこそ違うものの、腕の立つ看板屋さんが下書きなしで見事に描き上げるのと似ています。仕上げの工程では、ほんのちょっとした線の曲がりや歪みを調節する。そのうえで押印した印影が、どのように表現されるかも想像して完成に結びつけるんです。彫るのは当然、左右逆に行なうわけですから、これはもう感覚を身につけ覚えていくしかありませんね。

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感覚は、経験を積み、研ぎすませていくしかないですが、プラスアルファの部分として、他の先生方の作品を多く見るなどし、自身の目を肥えさせるのも大切です。たくさん見て、自分ではこう書きたい、こう彫りたいと思いを馳せ、実際にたくさんつくる。自分の中に引き出しを多くつくっておかないと、厳しいでしょう。経験が必要でありながら、無論、それだけではだめで、どんな風に経験を積んだかが重要な世界です。私自身の修業時代の話になりますが、仕上げの前段階に粗彫りという工程があり、この時、削り過ぎると取り返しがききませんから、髪の毛一本ぐらいの余裕をつくるようにしていました。ただこれは、やはりぴたりと粗彫りした方が技術としては高いんですね。彫る際の深さにも細心の注意が求められますし。経験値を上げ、そういう素晴らしい技術を自分の財産とすれば、目に見えない髪の毛一本調節も、人の手でできるようになります。これが職人の勘と呼ばれる領域です。

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今は機械化による印章づくりが進んだこともあって、私の若い時のような修業をする人が、ほとんどいない状態です。私たちの世代が意識して、後世に手彫りの技術を伝えることに取り組まなければ、もっと減少してしまいます。これまでは当たり前のこととして継承されてきた手彫りの技術が、時代の波に飲みこまれ衰退してしまうのは、この業界でお世話になっている者としてさびしい限りだし、本当に辛いこと。その意味でもしっかりと伝承の道をつくり、貢献することが、印章の世界に携わる人間としての役割でもあると認識しています。

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