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石彫り

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通常の実印や銀行印などのいわゆる実用印は「篆刻」の技術を応用しています。一般的な実用印の勉強・修業を通し、この業界で生きてきた私としては「基本中の基本である篆刻を知らずして、今まで来てしまった」との思いが常にあったんです。お客様から「石を彫ってくれないか」と依頼されれば、手彫りの技術はありますので、見よう見まねで何となく同じようなものを彫ってはいました。ただ、石に彫られた文字に対し、何が良くて何が悪いのかは自分でも理解できていない。印章彫刻技能士一級の資格を取得したのを一つの契機と考え「原点に立ち返り、篆刻・すなわち、石を彫る勉強をしっかりしておこう」と決意しました。

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最初は勉強の仕方すらわからずに独学の状態。石は、象牙や柘材などを彫る現代実用印のように細かい線を少しずつ削る作業ではなく、むしろ一発勝負のような彫り方が要求されます。一刀で力を入れれば深くも彫れるし、鋭くも彫れる。我々が普段行なっている彫り方とは、明らかに違うやり方なんです。篆刻の先生の言葉を借りると「ハンコ屋さんでなまじ技術を持っている人は、石を彫る時に大切な勢いがない」と。文字をつくることにこだわりたいので、どうしても慎重になる分、慣れるまでは勢いが出せないんですよね。現在の先生からは「壊してもいいから、思いきり彫りなさい」というアドバイスを、よく頂戴します。

現在、私が通う東京印章協同組合の篆刻教室は、本来であれば他県の人間は入れないのですが、無理を言ってお願いし、参加させてもらっています。先生の助言に沿って彫っていくと、昔の名品などを鑑賞する際、線の活き活きとした動きに得心し「なるほど!」と感じられる瞬間が訪れるんですね。「この作品はすごく躍動感がある」などと理解できる感覚、つまりは見る目が育つ。そうなると、不思議なことに通常の実用印を彫っている時にも、線の「生き死に」が気になってくるんです。篆刻の世界に触れることで、こんなにも視野、視界が広がるとは、正直、思っていませんでした。その意味で、石の印章を彫る以上に、むしろ手彫りの実用印に対する姿勢や価値観を大きく変える“気づき”があったということですね。

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石を彫るということは、道具も違えば力の入れ方も違います。とりわけ篆刻教室に通う前と後とで私に変化が生じたのは、文字の書き方、選び方。それまでは篆書体の辞書を参考に、バランスだけを考慮して、文字はチョイスしていました。教室に参加してからは、この文字のいわれはそもそも何なのか?、どのような変化を経てこの形になったのか?、なども注視するようになったんです。その文字の成り立ちを鑑み、その他の文字との組み合わせの中でこう表現しよう、と深い部分で文字と付き合えるようになりました。このことは、スタンプナメカワが、お客様に文字の成り立ちから説明する大きなきっかけにもなっています。

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今の私は、印章の歴史に名を残す方々の作品を徹底的に模刻している段階。いずれ展覧会や展示会に作品を出すようになるならば、模刻ではなく、自分らしさの雰囲気をまとわせなければいけません。私としては、自分の作風がどこにあるのか、今は探している途中。実用印の篆書体であれば、文字を彫った時に特有のクセも出ますから、周囲の人間が見た時、私の文字だと何となくわかる。同様に、石を彫る篆刻でも、自分の目指す世界が表現できる領域までたどり着きたいとは思います。激しく変化がある書体は、一時(いっとき)目を惹きますが、逆に飽きも早いですし、長く使えるものとは言い難い。シンプルでありながら、どことなくぬくもりが感じられる印章というのが、私が望む究極の形だと思います。自分の分身を表すのが印章ですから、長く使えて、また、使う程に愛着が増していくものであってほしい。そのためには「いつまでも大切にしたい」と思わせる何かが内側から自然と湧き出るような印章をつくりたいですよね。

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